さながら極楽浄土の美酒か、それともエデンの林檎か。極上の快楽を与えるディディエダグノー、プイィフュメ3種を利く。



こんばんわ。
やっと仕事がひとつひと段落して、更新が続けられそうです。
といってもさほど量は飲めている訳ではないので、溜めてる分量は程々なのですが。
さて、今回はボルドーから一休み、個人的に非常に注目しているロワールです。
ロワールと言えば、有名なのはビオディナミの先駆者ニコラジョリーのクロ ド ラ クレ ド セラン、そしてボンヌゾーやコトー デュ レイヨンなどのシュナンブランの貴腐、シノンの赤、そしてセントル ニヴェルネのプイィフュメとサンセール。
その中のプイィフュメで圧倒的な存在感を放つソーヴィニヨンブランの異端児、ディディエダグノーをレポートします。
ディディエダグノーは、1983年に様々なキャリアを経てプイィフュメにドメーヌを興します。93年から有機栽培を始め、いわゆるソーヴィニヨンブランの枠組みを大きく飛び越える卓抜したプイィフュメを一貫して作り続けています。作付面積は11haほどで、その最高の区画である「シレックス」ヴィーニュフランセーズを使用した「ピュール サン」がフラッグシップとしてリリースされています。
有機農法、大人数での手摘み収穫や選果をおこないます。収穫した葡萄はプレス後、ステンレスタンクで2日間寝かせた後、22度まで温度を上げながら10-12日間木樽でアルコール発酵。マロラクティック発酵はしない。新樽20%-30%程度で12ヶ月シュールリーで熟成し、更に4~8ヶ月間の間ステンレスタンクで熟成する。最長で20ヶ月程度の熟成期間を経て、瓶詰めされ出荷されます。

今回はダグノーのプイィフュメ、そしてプイィフュメ「ピュールサン」「シレックス」です。


生産者: ディディエ ダグノー
銘柄: ブラン フュメ ド プイィ 2010

約7800円、WA91-92pt(2009)
色調は淡いイエロー、粘性は高い。端的に言えばスタイルはプイィフュメの王道を尊重した香りと言える。ただ一般的なプイィフュメと大きく異なるのが赤リンゴやライチの核種系のとろりとした蜜を感じさせる甘露さと、爽やかな酸味を伴う溌剌とした果実味が同居しているところです。そしてその果実味と均整の取るかの様な強いムスクやフレッシュハーブのニュアンスが感じられる。この2点に尽きる。
プイィフュメに見られる燻した様な香り、そしてミネラルもしっかりと現れている。ヨーグルトや白胡椒などの風味も。一般的なフュメと比べると複雑でいて、かつ均整が取れた味わいと言える。
酸味は穏やかで、心地よい林檎の果実味が口に広がる。ラムネの様に広域に抜ける伸びやかな香り。余韻は長い。


生産者: ディディエ ダグノー
銘柄: ブラン フュメ ド プイィ ピュールサン 2010
約10000円、WA92-93pt(2009)

外観は淡いストローイエロー、粘性は高い。
シレックスを含む、このグレードからプイィフュメという枠組みを、その限界を乗り越えた様な感覚を強く受ける。極めてプイィフュメとしては異質である。
シュヴァリエやペリエールすら凌駕する、極端なまでの強烈な石灰の様なミネラル感やオイリーさがありながら、石鹸や百合などの白い花のニュアンスが鮮明かつはっきりとした輪郭で描写されている。さながら白粉の様な香り。
そして核種系の煮詰めたシロップ、黄桃や林檎の蜜の様な際立った果実味を感じる。
強烈すぎるフレッシュハーブ、青草などの清涼感と強固なミネラル、白胡椒などのスパイス、シャンピニオンや白檀などの複雑な香り。
もちろん燻したニュアンスはあるが、それでもプイィフュメというのに抵抗がある位に全体の姿が異質だ。シレックスのような溌剌さはあまり感じられない。
酸味はややブラン フュメ ド プイィと比較すると強めだが、穏やかで、トゲトゲしさはなく余韻は非常に長い。
この世のものとは思えない瀟洒で華やかな香りを放つ。


生産者: ディディエ ダグノー
銘柄: ブラン フュメ ド プイィ シレックス 2010

約13000円、WA93-94pt(2009)
外観は淡いストローイエロー、粘性は高い。
ピュールサンですらそのミネラル感に卒倒しそうになったが、この卓抜したプイィフュメはその上をいとも簡単に乗り越える。まさに岩を破砕した様な最も強固なミネラル感を感じる。その分非常に硬質で内向きの個性を感じるが、2008年の灯油がごときニュアンスには至っていない。こちらも華やかで石鹸や百合の様な白い花のニュアンスを強く感じるが、それらの要素が極端に突出したピュールサンと比べると僅かにその主張は穏やかである。
どちらかといえば果実味主体で、その強烈なミネラルを伴いながら、完熟した赤リンゴやシロップ漬けのパイナップルの様な瑞々しくも豊満な香りが漂う。ピュールサンのネットリとした甘さではなく、こちらは非常に蜜の様な瑞々しい甘さの発露。
コート ド ボーヌで言うならばバタールモンラッシェやルフレーヴのワインによく似ている。
ミネラルの硬質さ、果実味のタイプもあいまって、とても清涼感に満ち溢れている。煌びやかな黄金飴の様な甘露さがある。
そしてシャンピニオンやフレッシュハーブやムスク、白胡椒、ローストナッツなど非常に複雑な風味を放つ。徐々に百合の香りが強くなっていく。
酸味はシレックスが僅かに強い。鋭い酸というより旨味を伴う厚い酸。百合や赤林檎の果実味が広がる。素晴らしいソーヴィニヨンブランだ。


相変わらず途轍もないソーヴィニヨンブラン。
プイィフュメ自体、ボルドーの白に決して劣る事の無い最高のソーヴィニヨンブランだとは思ってるのだけど、ディディエダクノーは遥かにその上を行く。ボーヌのシャルドネの厚さやミネラル感、コンドリューの様な濃密感と生来の果実味の爽快さを併せ持っている。
今回の3本で言うと、ブラン フュメ ド プイィに関しては、いわゆるプイィ フュメを踏襲したスタイルの作りで、爽やかな果実味とムスクやハーブの香りを主軸としている。濃密感はプイィフュメと比べると強いが、まだその枠内で語られるべきソーヴィニヨンブラン。
しかしながら、残りの2本であるピュールサンとシレックスは、その枠組みを大きく飛び越えるスタイルになっている。共通する特徴としてはペリエールやシュヴァリエに比肩する石を舐めたようなミネラル感、そして強烈な果実味の2点が挙げられる。
面白いのが各々で若干別の方向を向いている点だ。単純にピュールサン>シレックスの図式ではない。
ピュールサンの特徴としては、卓抜したミネラル感を持ちながら、最も強く全体の印象を決めているのは果実味と華やかさである。
サーヴ直後は百合や青草、フレッシュハーブの清涼感と特異性が前に出ているが、徐々に現れるその強烈無比の果実味たるや、さながらドーヴネイのムルソーを想起させる。このワインの大きな特徴はまさにそこにある。
清涼感が突出するソーヴィニヨンブランにおいて、ここまでの甘さが現れてくるワインは滅多にないだろう。
そしてフラッグシップ、シレックスについては「均衡、バランス」という言葉が適切だろう。全ての要素が突出して力強く、驚くべき調和を見せる。ピュールサンを凌駕する強固なミネラル、そして方向性は異なるがルフレーヴの一級、特級に比肩する黄金飴やシロップの様な果実味、シャンピニオンやムスクなど。これらの官能的な香りが、見事なバランスで液面から放出されている。
果実味はソーヴィニヨンブランに関わらず本来の葡萄のポテンシャルを表し、ミネラルはその土壌によるもの。各種ソーヴィニヨンブランの要素は確かに存在するものの、本来のソーヴィニヨンブランの特徴に隠れてしまう要素を強く引き出した結果、プイィフュメとしての均衡は崩され、新たな卓抜したワインとして構築されている。
これは、プイィ フュメの「破壊と再構築」。神を恐れぬこの技は、まさに「アンファン テリブル」に相応しい。
なお、シレックスはその名前の通りベクトライトという珪質と粘土質からなる土壌。ピュールサンは泥炭土、アステロイド土壌に植わるヴィーニュフランセーズから作られている。

もし、ソーヴィニヨンブランが軽視されているならば、まずはシレックスとピュールサンを飲んでみて欲しい。
新しいソーヴィニヨンブランの世界を開ける筈だ。

2008年にこの「アンファン テリブル」ディディエダクノー氏は飛行機事故で亡くなっている。現在は息子のバンジャマンが舵を取っている。
オジーオズボーンバンドのランディローズも飛行機事故で亡くなった。
まるで世界が大きな変革を拒むかの様に。残念な事だ。




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HKO(はこ)

Author:HKO(はこ)
HKOです。
世界を股にかけない普通の内勤サラリーマン。
体はピノノワールとシャルドネで出来ていますが、最近は専らシラー、グルナッシュ、ヴィオニエなどの南仏品種や、ジンファンデルみたいな濃い品種が好み。貴重なワインや興味深いワインを求めて日夜東京を徘徊する日々。
食べ歩きを2014年頃からスタート。
ミシュラン星付きフレンチ(2017年度版まで)制覇まであと2店舗。
2店舗のハードルが高いので、最近は手軽なビストロなどを周遊。
基本フレンチ/イノベーティブ/フュージョンを愛するが、イタリアンや和食にも食指を伸ばす日々。ペアリングは考えず、皿の中で終局する世界観を大切にしています。

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