こんにちは。
本日はボルドー、ソーテルヌの古酒です。ソーテルヌのシャトーディケムの73年古酒です。なかなか飲む機会がない貴重な一本でした。
シャトーディケムはソーテルヌに拠点を構える世界最高の貴腐ワインを産出するシャトー。現地ソーテルヌの格付けでは、ただ唯一の特別一級(プルミエクリュスペリュール)として君臨しています。
驚異的な低収量が特徴で、平均して葡萄一本につきグラス一杯のみしか取れない、これは木の樹齢の高い事、貴腐粒だけを丁寧に選別している事、そして長期間の樽熟成に伴う蒸発に起因します。100%オーク新樽で42ヶ月の樽熟成。全行程に渡って当然ながら補糖補酸は行われません。不作の年はリリースされません。(直近だと2012年ですね)
生産者、銘柄: シャトー ディケム 1940
品種: セミヨン80%、ソーヴィニヨンブラン20%


約200000円、WA91pt(1945)
外観は焦げた茶色、粘性は高い。
およそ70年。悠久の時を経て抜栓されたその液体は、当然ながら熟成香に満ち溢れているが、それでも想像をはるかに超える若々しさを保っていた。
濡れた樹皮や腐葉土、キノコ、タール、そしてカマンベールなどの強い熟成香。若いヴィンテージに見られた清涼感や透明感は見られない。
ただ失ったそれらの要素を補う様に、熟成による複雑で深遠な要素が液体に満ち溢れている。
その複雑な要素の中に核として洋梨やマンゴーの濃厚な甘露さが生き残っている。そして濡れた土や藺草やドライハーブ、白胡椒、香ばしいナッツなどの風味が徐々に解きほぐされていく。
貴腐による生来の甘露さは全く衰えておらず、その酸味もしっかりと残存している。口内で香ばしくほのかなカラメルの香り。70年を経たそのボディは不死身かと思わせる様に強固さを保っている。
いやあ、シャトーディケムのここまで古いヴィンテージは初めてです。
正直「色調はもはや茶色だし、本当に飲んで大丈夫だろうか」という杞憂を吹き飛ばす様な複雑で深淵で生命力に満ち溢れたワインでした。凄まじいです。
さて、そんな凄まじい古酒と若いヴィンテージと比較するとどうでしょうか。
2000年代のディケムは若いながらもとても偉大なワインで羽の様な軽やかさと清涼感がありつつ、芯は膨大でアプリコットや黄桃のコンポートのような甘露さを持っていました。
また、90年代は清涼感は落ちましたが、濃厚なクリームブリュレや洋梨、黄桃の果実味が液体に体躯を与え、クリームチーズや木材の様な複雑な風味が現れてきます。
1940年はどうでしょうか。
既に70年の時を経ている為、その複雑さ、厚さの代償に清涼感は失われています。枯れた草やドライハーブ、白胡椒、濡れた土などの熟成香が主体となりますが、そのカラメルのような甘露さはしっかりと残っています。
いや、不朽の存在であることを強く認識させられますね。
熟成も本当に綺麗に熟成していくし、どのタイミングでも、そのタイミングならではの良さがありますね。甘露さが一本筋にあって、そこに纏う要素が時代に寄って変わっていくという。
当然ですが、いずれのヴィンテージも偉大だとは思います。
ただ、美味い不味いで言えば90年代が最も熟成とバランスが取れていると思います。
やはりこの手の古酒は、実際の味わいよりも飲んだ事に意義がある様な気がしますね。その時代に思いを馳せながら飲むと、より深い感動を感じられる一本だと思います。
日本が戦争に向かっていった年。そして、まさにかのフランスの地にナチスドイツが侵攻した年。
そんな閉塞感に満ちた時代に産み落とされたヴィンテージが、今この時代に抜栓されるのは、何か因果めいたものを感じてしまいますね。
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